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警備場所についた土方さんは呆気にとられたように現場を見つめていた。

確かにお化けは苦手だが、しょせん縁日に建てられるものなどたかが知れていると思っていたのだろう。

しかしまるで大規模テーマパークばりの規模、しかしそれらにありがちなメルヘンチックな趣はゼロの

おどろおどろしい廃病院仕様、建物の外にはこれも演出の一種だというのだろうか、カラスがギャアギャアと飛び回っていた。

実はこれ、本格的なパビリオンを手軽に設置できる天人の技術を活かした、今評判のお化け屋敷なのだ。

そいつが今回の夏祭りに出店してくるという噂を聞いて、今回の「お化け屋敷でどっきりデート大作戦」を思いついた。

出口からはちょうど半泣きの男と大泣きの女というカップルが出てきたところだ。

「さて、中に入りやしょう」

「え・・?」

ぎぎぎ・・という音を立てるかのようにぎこちなく、土方さんが俺を見る。

「た、建物内に入ったら通行人をチェックできねえだろ。外の方がいいんじゃ・・」

「あ、外には別に人員割いてますんで、ご心配なく」

「し、しかし・・」

「ここ、前評判高くて人気のスポットなんでさぁ。爆弾仕掛けたりとか、騒ぎを起こすにはうってつけだと思いやせんか?

だから副長と俺が担当するんですがねえ、怖いんなら・・」

「だからっ!怖いなんて言ってねえだろ!なんだこんなもん造りモンじゃねえか!」

「じゃあ、行きやしょう。大丈夫、手ぇつないでてあげますから」

「いるかっ」

 

 

入口で金を払うと切符の代わりに「診察券」が渡された。

廃病院仕様のお化け屋敷はこれを持って受付から診察室、手術室、入院病棟、そして霊安室を通って出口までいく順路になっている。

中は真っ暗ではなく灰色の薄暗い照明が施されていた。よかった、こうでなくては土方さんの怯える、むっちゃカワイイ顔が拝めない。

待合室に入ると、受付には体半分がミイラ化した看護師が控えていた。

そして椅子にはおそらくCGであろう存在感の薄い青白い病人たちが順番を待っている。

一応警備なんだから不審物がないかとか、それこそ部屋の隅々まで見なくてはならない。

土方さんはプロ意識を振り絞って顔だけは動かしているが、患者たちに目の焦点を合わせないようにしているのが明白だ。

俺たちが入るとほどなくして診察室のドアが開いた。

「さ、さくさく行きましょうぜ」

「け、警備なんだからな・・ちゃんと見てろよ」

「はいはい、ちゃんと見てますってば」

“カワイイあんたの顔をねィ”

 

 

診察室に入ると同時に大きな音を立てて背後のドアが閉まった。

「ひっ・・」

土方さんはなんとか悲鳴は抑えたようだが、それと同時に俺の袖が何かに引っ張られた。

あはは、やっぱりアンタの手かい。本人はまだ気づいてないらしいが。

 診察室には医者はおらず、さて順路はどうなってんのか・・と思っていたら、

今入ってきたドアがドンドンとすさまじい音を立てだした。

“私を診て〜”

“俺が先だろ〜”

ああ、なるほど、俺たちは順番を追い抜いちまったってことか。そりゃあ腹も立つわな。

ちょっと笑える演出だが、土方さんの袖を掴む手にぐっと力が入ったのが分かった。

密閉された部屋の中、外からは患者たちのうめき声と叩かれ続けるドアの振動。

心の中ではすげえ悲鳴を上げてるんじゃないかと思う。ふふふ、この先の順路気付いてますかい?

「土方さん、次行きますぜい」

「・・え?どっちに?」

「ほら、順路って書いてありまさぁ」

 見ると、順路の矢印が今入ってきたドアに向いている。

そう、このドアを自分で開けて、患者どもが追いすがる中、廊下を次の手術室に向かって走らなければならないのだ。

「いっ・・・や」

「うりゃ」

躊躇う土方さんに構わずドアを開けた。途端にCGどもが診察室に入り込んでくる。

「うわああああああっ」

俺はとっさに、悲鳴を上げた土方さんの手を取って走り出した。

先ほどはCGだけだったが、廊下にはリアルに人を配置していたようで、腕をつかんだりして追いすがってくる。

「や、やめっ・・」

俺が取った手を必死に握り返してきた土方さんは、怖さのあまり目をつむって、俺の先導するままについて走っていた。

ガキの頃は常に俺が手を引かれる側だったし、最近は手なんかつないでなかったから、

霊たちが襲い掛かる廊下を走りながらという異様な状況で俺は、妙な感慨に包まれていた。

 
 
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