本日はお日柄もよく 後編

 

 

人間思考が滞ると動きまで鈍くなるらしい。まだ状況が飲み込めてないらしい土方の帯を解くのはさほど難しいことではなかった。そして肌蹴た着物と襦袢姿に銀時は息を呑む。

 これまでも襦袢姿どころか、土方の裸を目にしたことはある。サウナや銭湯で見る度、隊服の上からは分からない腰の細さや肌のキメ細やかさに目を奪われ、そういう自分に驚きを感じたものだ。

 そう、銀時は土方に欲情していた。顔がいいのは初対面から分かっていたし、敵対してくるとはいえ、その信念の強さも愛すべきものとして理解していた。しかしそれは彼の性格を、あくまで男として好ましく思っていたにすぎない。このような劣情を抱くようになったのはいつからだろう。

 自分の思いすらはっきりせず悶々としていた銀時を焚きつけたのが、土方の何気ないひと言だった。

“うちの山崎”

 あの地味な部下が着付けた袴、結んだ帯をはずし、あらわになった土方の肉体を手に入れることが、今の自分が最も求めているということ、銀時に分かっていたのはそれだけだった。

 土方が何かを喚いている。

 その唇を己の口で強引にふさごうとした、その時。

 

 

“ピロリン”

間の抜けた電子音が頭上から降ってきた。

「今日のところはその辺で勘弁してやってもらえやせんか、旦那」

「総悟!」

土方が見上げると、携帯を向けた沖田が個室のドアの上方から覗いていた。

「土方の泣き顔ゲーッツ」

「・・・・っ、泣いてねえ!!つか撮ってんじゃねえよっ!」

「隊士どもに送ってやりましょうか」

「馬鹿、やめろ・・・つか、いい加減離せ、クソ天パ!!!」

「ぃてっ・・」

今度は銀時が思考を停止していたためか、容易に拘束は解かれた。突き飛ばされた拍子にドアにしたたか後頭部を打ちつけた銀時を、立ち上がった土方が見下ろす。

「何のつもりか知らねぇが、ずいぶんフザケタ真似してくれたじゃねえか、ああ?」

肌蹴た前を隠すこともなく凄んでみせるその姿は、いまだ銀時の行動の意味を理解していないであろうことを思わせる。立ち上がったので着物の前が下半身まで開き、裾からボクサーパンツが覗いていた。

「褌じゃ・・ないんだなあ」

「はあ?」

「いや、土方くん、羽織袴だったら下着も褌とかこだわってそうでさ」

「・・・・・まさか、そんなことのために脱がせたのか?」

“そんなわけないだろ”

心底あきれたような声を出した土方に銀時は心の中で突っ込む。

“全く、このコはここまでやられて察しないとはねえ”。

しかしかえって好都合なのかもしれない、と銀時は思い直した。

募っていたのは欲情だけじゃない。もしそうだったら土方が山崎をどう思おうと関係ないはずだ。自分は土方の何を欲しているのだろう。互いに思いあう心だろうか。だったら無理矢理ことに及ばなくてよかったということか・・・。

そこまで考えて、銀時は自分の考えの薄ら寒さにぶるりと震えた。時には敵対し、よくても喧嘩相手の腐れ縁。そんな奴と俺はどうなりたいって?

 

 

「この借りは必ず返すからな」

いつになくおとなしい銀時に毒気を抜かれたのか、土方は帯と袴を拾ってそのまま個室から出て行った。そして洗面台の向かいのスペースで乱れた着物を着付けていく。考えてみれば銀時も袴を脱ぐならここで脱げばよかったのだ。それをわざわざ個室に入って用を足すなど、そこでおかしいと思うべきだった、そんなことを考えながら帯を締めなおし、袴を履いていると、ようやく銀時が個室から出てきた。

「あー、土方くん。泣かせちゃってごめんねー」

 全く悪いとも思ってなさそうな、いつもの死んだ魚のような目。なのに、いつもどおりのその顔にホッとしたのが恥ずかしくて、土方は思わず声を張った。

「だから泣いてねえって言ってんだろ!!いい加減お前も袴履けよ!」

「ああ、うん。土方くん、なかなか着付け上手いな」

「あ?ああ・・山崎ほどじゃないけどな。実際近藤さんや総悟のは俺が着せてやったんだし」

「・・・・」

「近藤さんはやっぱガタイがいいから腹の辺りがビシッと決まるんだよなあ。総悟はまあ、七五三みてぇだけどな」

「・・・・あ、そう」

近藤の話に少し機嫌をなおした土方は、さっさと着付けを終えて厠から出て行ってしまった。

 

 

「七五三みてぇってさ、総一郎くん」

「若さはじけちまって仕方ありませんぜ。枯れてる旦那がうらやましいや」

「そうだな、反省していっそ枯れちゃおうかな、もう」

「感謝してくだせえよ、旦那。ホントならとことん嫌われるよう、最後まで犯らせてもよかったんですけどねぃ」

“まあ、それは単に俺の気が進まなかったんですがね”心の中で呟きながら、沖田は銀時の思いが自分と似たものであることを感じていた。身体を繋げるだけならどうとでもなる。しかし、それではダメなんだろう。だからこそ、近藤さんや自分、そしてザキなんぞにまで嫉妬しちまって、全くこの旦那は。

 

 

沖田が考え事をしているうちに、銀時はもう、袴を着け終えていた。

「旦那もなかなか手馴れたもんじゃないですか」

「ん?ったりめえだろ。こんなもん・・・そっちこそ普段から袴履いてなかったっけ?」

「土方さんに着付けてもらうなあ、いい気分ですぜ。跪いてご奉仕されてるみてえだし。ちょいと甘えた顔すると、なんか嬉しそうな顔で寄ってきて、ついでに羽織紐まで結んでくれやした」

「・・・・へ、へええええ、そんなんで密かな喜び感じてるなんて、総一郎くんもカワイイねえ」

「旦那ももっと可愛くしてりゃあ、帯のひとつも結んでもらえますぜ」

「・・・いいんだよ、俺ぁ脱がせる方で」

 いや、脱がせるよりも、跪いて帯を締めてもらう方が幸せかもなあ・・・そんな思考にまたもや薄ら寒さを感じるはずの銀時の胸には、なぜかほっこりとした暖かさがあった。

 

 

“こりゃあいよいよヤバイんじゃね?俺”

 

END

2012/03/22

銀さん&真選組の羽織袴に萌えて萌えて・・・(≧▽≦)まあ、皆さん着物の着付けなんて日常のことでしょうから。羽織袴なんかも普通に着れちゃいますよね。
ところで、銀さん、今頃土方さんへの気持ちに気づいたの?遅いわよ!!!とはいえ、今後もいろんなシチュエーションでお初っぽい話は書いてしまうでしょう。今回寸止め(・・・とすら言えない)だったしなあ。総悟の救出が早すぎたかしら!?

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