お説教(銀時視点)1
 

残暑もようやく落ち着いて外をぶらつくのにいい季節となった。今日も今日とて新八から“仕事を探して来い”と追い出され、当てもなくふらついていたわけだが、お陰でいいものを見つけた。

 マイスイートハニー土方くんだ。ここんとこずっと仕事続きでご無沙汰だったが、明後日ようやく非番となった。明日の夜には来てくれるだろうけど1日早く見られてラッキーだ。

 今日の仕事は要人警護らしい。黒塗りのいかつい車の助手席から出てきた彼が後部座席のドアを開けると、天人が二人降りてきた。外観は俺たちと変わりなかったが、服装からそうと知れる。何かを指さしながら説明している土方の様子から、視察かなにかで来たらしい。

 ただ、奴らは土方が指している方向など見てはいなかった。見ているのは…土方そのものだ。しかも身体中をニヤつく視線で舐めまわしている。さらに、説明を終えた土方の腰に手を回すと、近くの店に入って行った。この辺りではわりといい値段の土産物店だ。

“何?あいつら…”

 天人の年などよく分からないが、俺たちの基準で見ると50代ぐらいの、わりと偉いさんに見えた。今日は警護しながら観光のお伴ってわけか。でも奴らあきらかに土方くん狙ってね?

 お伴するのは一人だとしても、こういう警護は周囲に人を忍ばせておくものだ。見まわすとやはり、見たことのある若いのが目立たないよう佇んでいた。

「よう」

「あ…万事屋の旦那」

 そのうちの一人、ジミー君に声をかける。

「副長さん、今日は接待?大変だね」

「はあ。ご指名ですから」

「あ、やっぱり。て、ことは何?奴ら土方くん目当てってこと?」

「あ、分かりますか」

「分かります。みえみえだもん」

「副長もそのくらい敏感ならいいんですけどね…」 

はーっとジミー君が溜息をついた。確かに、向けられたのが殺意だとしたら、土方は誰よりも敏感にそれを察知し、手を打つだろう。しかし、こういうことにはとことん鈍感で、自分がそういう対象に見られるってことに気付かないから始末が悪い。これがおぼこ娘ってえなら話は分かるが、一応銀さんとお付き合いしてるんですよ?男が自分をどういう眼で見るか少しは考えてほしいものだけど、そもそも俺の嗜好が特別だと思ってるらしく、その辺りの相互理解が足りないんだよなあ。

おそらく、ジミー君たちは要人とともに、副長さんの貞操もしっかり警護しなくてはならないのだ。ご苦労なことだ…なんて言ってられない。

「奴らの、これからの予定は?」

「そんなの、言えるわけないじゃないですか。」

「あっ、そう。じゃあ、奴らが副長さんに手ぇ出そうとしたら、お前らが踏み込んでボコボコにしてくれるわけね」

 そう脅すと、山崎はあっさりと今夜の予定を吐いた。彼らとて副長がセクハラされるのを歯ぎしりする思いで見ているのだ。土方本人は気付いてないが、真選組には土方スキーがわんさと居る。鬼に手を出す度胸がないのと、総一郎くん(「総悟でさあ」from沖田)が睨みを利かせているから奇跡的にこれまで無事だったのだ。まあ、そこを掻っ攫っちゃったのが俺だってのはバレてるらしいけど。

 話がそれた。とにかく、今夜は某高級クラブでお楽しみらしい。昼間はジミー君たちに任せるとして、密室となる夜の部を勝手に担当させてもらうことにした。

 

 

 

飲み屋街が賑やかさを増してきた頃、俺はその高級クラブに赴いた。もちろん客として入るのはこの懐具合から無理だし、そもそも今日は貸し切りかもしれない。しかしそこには以前ちょいと手助けをした娘が働いていた。

「どう?俺のスイートハニーは」

「あー、結構やられちゃってるわよ。女の子よりもベッタベタに触られてる。やっぱさあ、綺麗なんだけど、それだけじゃないのよねえ。なんかこう、あの制服を乱して泣かせてやりたいっていうか…」

「ストーップ!それは分かってるから!緊急事態だから!」

「分かってるわよ、だから協力してんじゃん。ほら!」

その娘が懐から小瓶を取り出した。即効性の睡眠薬だ。用意がいいな、と感心したら、なんと奴らが持ってたのをスリ取ったと言う。俺が思ってた以上にヤバかったらしい。あとは俺が外で騒ぎを起こして土方を誘い出し、その間に天人どもを眠らせることで、事なきを得たわけだ。いや、危なかった。

 自分がどれだけ男をソソルのか、土方くんにはもう少し自覚してもらわないと。これはやっぱりお説教が必要だよね? 

 

 

 

 翌日、あと2時間で日付も変わろうかという時刻に、恋人である土方くんがやってきた。久々で頬が緩みそうになるのをぐっと抑えて出迎える。そう、今日はお説教をしなくてはならないのだから。

「なんだよ、おめえ、その顔」

「あ?なんだもなにも、これが俺の顔だよ、悪かったな」

「そうじゃなくて…人がせっかく来てやったってのに、そのイヤそうな顔はなんだって言ってんだよ」

「来てやった…ね、まあいいや、上がれば?」

普段と違う俺の態度にちょっとビクついてる土方がむちゃくちゃ可愛い。神楽を預けてすでに帰した新八の代わりに茶を入れてやると、多分無意識なんだろうなあ、両手で湯呑みを持ってすすりながら上目使いでこっちを見ている。なんだ、その小動物的な振る舞いは。いつも片手でワイルドに飲み干すのはポーズなんだよね。こういう時につい出ちゃうよね、君の可愛さが。

「あ…、万事屋?」

 沈黙に耐えきれず、土方が不安な声を漏らした。

「お仕事お疲れ様ぁ いやあ、天人相手に大変でしたねぇ」

「見てたのか?」

可愛さを堪能するのは一時中断。これからお説教タイムだ。

「土方くんさ、いつもああなの?」

「なにがだよ」

「お偉いさん相手にぼーっと隙だらけでさ」

「はあっ?何言ってやがる。あんなんでも幕府にとっちゃ重要人物だぞ。どっから狙われるか分かんねえから、気い抜いてる暇なんかなかったわ!」

あ、やっぱり分かってないか。俺はことさらに不機嫌さを装い、ハーッと大げさな溜息をついた。

「おそばで護衛する役目って土方くんご指名じゃなかった?」

「え?なんで知ってんだ?」

「んで、夜のお店では相当ベタベタ触られたでしょ」

「…見てたのか?」

「見てないよ」

「じゃあ、なんで…」

「なぜ分かったか分からない?」

「ああ」

「昼間、お前らを見かけたからだよ」

「はあ?」

土方はワケが分からない、という顔をした。

「いや、確かに夜はへべれけになって女と間違われたが、昼間はそんなことはなかったぜ。まあ、多少スキンシップが過剰な奴だとは思ったが、天人だからそういう習慣なのかもしれねえし」

 あああ…なんかホントに不機嫌になってきましたよ。バカか、バカなのか?こいつは…。「おい!言いたいことがあるならハッキリ言えや!なんだ、さっきからグチグチグチグチ…」

 心の声が口に出ていたらしい俺に、土方がキレだした。 やっぱ厳しく言わないと分かんないの?お前。

「お前、昼間っからガンガンセクハラされてただろうがああああっ」

 どんっと拳をテーブルに叩きつけると、土方がなんかびくんとした。あ、やっぱ可愛い。

「ひ、昼間っから…?いや、そりゃ見間違いだ」

「じゃあ、なんで夜、ああ土方くん触られてんだろーなーなんて予感が的中すんのかね?そんで外で騒ぎ起こしてその間にあいつら眠らせるなんてことを俺がしなきゃいかんの?」

「え、まさか昨夜の騒ぎは…」

そうですよ、俺ですよ。昨日の顛末を説明してやり、この鈍チンに反省を促す。

「お前さあ、自分で自分の身ぐらい守んなきゃ」

「…守れてる」

 まあ、素直にごめんなさい、なんて言う奴じゃないけどね。ここはこっちも折れるわけにはいかない。

「俺の言ってんのはそういうことじゃないって、分かってるよね?」

さらに険を増して土方に迫った。口は素直じゃないけれど、心はとっても素直な土方くんは多分、これで反省モードに入ってるはず。でも、ダメだよ、ちゃんと言葉にしなきゃ。下を向いてブツブツと紡ぎ出した言葉を拾うと、別に力ずくで襲われるわけじゃなし…とか、言っている。まだお口は素直じゃないね。

「土方君、心の声口に出てるから」

「え?」

「力ずくで襲われるわけじゃない…ねえ」

「お、おう…それこそ自分の身は自分で守れるってんだ」

「店で仕込んだ薬さあ、普通そんなもん用意してると思う?」

「はあ?」

「お偉いさんが持ってた薬、店の女の子がこっそり抜き取ってくれたんだよねー」

「・・・・・・」

 これには流石に声が出なかったらしい。対面で座っていた俺は席を移して土方の背中を抱いた。ほら、震えてるじゃん。

「俺の言いたいこと、分かった?」

「…あ、いや、でも店の女に悪さするつもりだったのかも…」

「ひーじかーたくーん」

まだ言うか、このコは。

「ひょっとしたら自分の不眠用かもしれ…」

「土方あ?」

いい加減、銀さんも本気で怒るよ?

下を向いて黙ってしまった彼に最後通告。

「反省してんのか?」

「…知るか、ボケ うおあっ」

そしてそれを蹴った土方くん。言葉で分からないコにはやっぱり体罰しかないでしょ。俺は土方を抱えあげると和室の万年床に放り込んだ。

 

 

 

「いっ…てえ、え、おい!」

そのまま何も言わずに土方を押さえつけ、取り上げた帯で両手を縛りあげた。

「何すんだっ」

 くるんとひっくり返すと噛みつくように怒鳴ってきたが、いや、銀さんそれ以上に怒ってるから。

「だって土方くんさあ、こうされたかったんでしょ?」

そして自分の帯で両足もひとまとめにした。根性で起き上がった土方が頭突きをしてくるが、そんなの利かない。程なく芋虫のように転がされた彼に冷たい一言を浴びせた。

「うちにはそういう薬がないからさ、でも自由を奪われてムリヤリってんだったらこれでもいいよね」

そしてこれが重要。手ぬぐいを出して目を塞いだ。

「よろ…ずや、なんで…」

手足の自由も視界も奪われ、そしてすっかりはだけてしまった着流しの上で横たわる土方。その姿も、その震える声も、すっごいそそるよ。でもお前分かってる?俺以外にそんな姿見せるとこだったんだよ。

「俺ちょっとコンビニ行ってくるからさ、一人で大人しく反省してて」

 ホント、しばらく反省してなさい。

 俺は茫然としている土方を置いて家を出た。

 

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