お説教(銀時視点)3

固まってしまった土方の顔から手ぬぐいを外すと、涙に濡れた瞳が茫然と俺を見つめていた。ああ、綺麗だ。こんな目をした相手からお前じゃなきゃと言われたんだと思うと、自然と顔が緩んでくる。

「あー、泣いちゃった。ごめんねー、怖かったでちゅか?」

「・・・なっ・・ぎんっ・・?」

「はーい、土方くんの大好きな銀さんですよ」

口をパクパクさせてしばらく言葉を探していたらしい。でも、何も出てこないみたいだ。その代りにまたあの綺麗な瞳から涙がぼろぼろと零れてきた。

「こんっの…クソっ、ひぐっ、殺す」

やっと出てきた言葉がそんな物騒なものだったけど。それはいかにも彼らしくて笑ってしまう。それに、しゃくりあげながら言っても全然怖くないよね、その言葉。

両手を解放してあげると、途端に殴りかかってくるところも、おんなじ。彼らしいけど、そんなフラフラじゃあ怖くない。難なく捉えると、俺の背中に回してあげた。これで遠慮なく甘えられるでしょ?

「もう、怖くないから。震えなくていいから」

「怖がってもねえし、震えてもねえ!」

「はいはい」

意地っ張りの愛しい存在を抱きしめながら、背中を撫ででやる。怒ってるみたいな口きいてるけど、しがみついてちゃ銀さんのこと好きって表現してるみたいだよ。

 

 

 

「で、どう?」

ようやく涙も止まって呼吸も落ち着いてきた頃、聞いてみた。

「何が」

「反省した?」

「・・・俺はテメエに猛省を促したいがな」

「なんで?」

「お・・お前自分が何やったか分かってんのか!誰か分からねえ相手からあんな真似されてどんだけ気色悪いと思ってんだっ」

「気持ち悪かったんだ」

「お…おう、怖くはなかったがな!」

あはは、本当に意地っ張りだね、このコは。可愛いけどここはちゃんと確認しておかないと、今日のお説教の意味がない。

「じゃあさ、土方くんが天人相手にそうならないよう注意した銀さんの気持ちも分かるよね」

 腕に力を込めて尋ねると、土方は黙りこんで、そして震えた。あの天人に今日のことをやられたら…と、やっとリアルに考えたのだろう。

「分かる」

ぼそりとそれだけ答えた。

「じゃあ、これからは気をつける?」

しかし、その返事は俺にとっては十分じゃなかった。

「…できるだけ気をつける」

俺が溜息をつくと、土方はちょっとビクッとした。しつこいようだが、可愛い。でもダメ。

「今日のようなことがそうそうあるとは思えないが」

「土方あ?」

ああ、また振り出しに戻ってるじゃん。今日のお説教はいったいなんだったのよ、いや、楽しかったけどね。

腐ったことを考えつつも正論で諭そうとした俺を、珍しく土方が遮った。

「そういうこともあるかもしれんってことは考えておく。だが仕事がそれでおろそかになるようだったら、それはそれで気色悪いんだよ。お前だって、日頃やる気はねえが、依頼人に頼まれた仕事はきっちりやり遂げてえだろ?」

 …参ったね。そうなんだよね。そんな土方だから俺は好きになっちゃったんだもんね。

今度の溜息には土方はビクつかなかった。まったく、そんなとこだけ敏いんだから。困った俺はそのまま、腕の中の愛しい存在を俺を押し倒した。しかしこれだけは言っておく。

「でも、覚えておいてね。土方くんがもし他人にこんなことされたら、俺そいつを殺しちゃうから」

本気だからね。言外にそれを匂わせて言うと、敏い土方は頷いた。俺の意を汲み取りすぎてちょっと顔を蒼くしてるね。もう反省したのは分かったから、これからは暖めてあげよう。そう思い耳元でこう囁いた。

「だって、土方くんが“銀時じゃなきゃやだ”って泣いちゃったぐらいだし?」

「はああああ?」

「いやー、可愛かったなあ。“ぎんっ…ぎんときじゃないとイヤだああ”って」

「言ってねえ!」

「言いましたー。あー、録音しとけば良かったなー。俺、あれで3回は抜けるわ」

「・・・・・」

土方のこめかみに青筋が立っている。よかった。いつも通り元気になったね。さっきは髪の感触でばれるから触れられなかったけど、本当は首筋にキスをするのが大好きだから。いつもの君の首筋に顔を埋めた。

そこで土方がぼそりとつぶやく。

「・・・分かった」

「何が?」

「お前じゃなきゃイヤだと確かに言った」

「でしょー。近来稀にみるデレが来た!と思ったね」

「あれは俺の弱さだ」

「はい?」

「考えてみれば男はお前以外知らないから、修行不足だからそうなったんだ。そんな自分を俺ぁ許せねえ。修行するわ」

何言ってんのおおおお?急にこのコは!トンデモナイ発想し出したよ!

「でもお前泣いてたじゃん!そんなのできるわけないでしょおお」

「修行はなんでもツライもんだ」

「土方ああああ!銀さん許しませんよ!お前をそんなふしだらな子に育てた覚えはありません!」

「育てられた覚えはねえが、安心しろ、無事親離れしてやる」

「ひどいっ!子供なんて皆自分勝手に巣立っていっちゃうんだ!」

なんでそうなるの?土方の強いモノ好きは知ってたけど、ここまでバカなのか?もうこれは強さフェチじゃね?

よよよ…と嘘泣きをしながら、本当に泣きそうになる。これはもう、あれだよね。身体に言い聞かせるしかなくね?いや、ベタだけどさ。そういや、ドSとして言ってみたかったんだよね、この台詞。

俺はお仕置きと称して土方にのしかかった。そしてドSのひと言。

「お前が誰のモノなのか、その身体に教え込んでやる」

 

 

 

次の日が非番だったのが幸いし、俺はゆっくり夕方までお仕置きをすることができた。

腰の抜けた土方を原チャリで送りながら“銀時じゃなきゃイヤだ”という台詞を反芻し、幸せに浸る。後ろで“原チャリで二ケツは違反だ”とかブツブツ言ってるこの堅物、この意地っ張りが吐いた台詞だけに、その貴重性は計り知れない。この台詞だけで一生生きていけるかもしれないとすら思う。

もっとも、土方の腰が回復する頃には、また土方不足で悶絶しているのだろうけれど。

 

 

20100919

 

 
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