5月5日は端午の節句。
男の子が強くたくましく育つことをお願いする日。
最近では男の子だけでなく、子供の健やかな成長を願う日でもあるらしい。
我が愛しの土方くんの誕生日がその日であることを思うと、微笑ましさについ頬が緩んでしまう。
いや、頬が緩むのはそれを知った時の思い出が蘇るからかもしれないな。
俺が「誕生日はいつ?」と聞いた時、土方くんはウッと何かが詰まったような声を出し「教えねぇ」と呟いたのだった。
「教えて?」2011.土誕
「なになに、なんで?普通恋人の誕生日ぐらい知りたいでしょうが」
「え?…いや、恋人じゃねえし」
「ちょっ…今更なに言ってんのおお!そうか、土方くんはそんなコだったか。恋人でもないのにデートしたりキスしたりあげくにセッ…」
「だああああっ!分かった!こっ…恋…びとでいい」
あはは、耳まで真っ赤になってソッポ向きながら言うのがカワイイーね。
ちなみに、俺、坂田銀時と土方くんはいわゆるお付き合いを始めて半年ぐらいたつ。大人のお付き合いであるからしてやることもやっている…とさらりと言うには随分苦労させられたけど、まあ、それは別の所でお話ししよう。
なんにせよ、初めての記憶がまだ生々しく残る、そういう時期であるわけですよ。
今日も土方くんは久々の休みを俺んちでまったり過ごすため、ふらりと訪ねてくれたわけだが、そのせいで俺の頭の中では今夜の計画がぐるぐる回っているところである。
過ごしやすい季節になってきたな、と5月の爽やかな風を入れるため窓を開けたりなんかしたけれど、頭の中はちっとも爽やかじゃない。
おっと、そうそう誕生日の話だった。なんで教えたくないんだろ?
「恋人だったら何かお祝いしたいし。たいしたことはできないけどよ」
「いや、仕事で会えるかどうかも分かんねえから」
「そん時はそん時だろ?銀さん“仕事と私とどっちが大事”なんてこと言わないよ?いいじゃん、なにもったいぶってんだよ」
俺がそう言うと、土方くんは横を向いたままだった視線をキッと正面に戻し、何か言おうとして、また下を向いた。そしてぼそり。
「…笑うだろ」
「は?」
何か笑う要素を持った誕生日なんてあったっけ?元旦とかだとそりゃ目出度い、ぐらいは言うかもしれんが、ひとの誕生日で笑ったような覚えがない。
「なあ、教えてよ。笑わないって」
「・・・・」
今度はだんまりか。さっきより顔の赤みが増しているのは気のせいじゃないよね。そんなに恥ずかしい日って、ホント気になる。なんかもう、恋人とかそういうこと抜きにしても気になってくるよ。
「ひーじかーたくーん」
ソファに座ってすっかり縮こまってしまった土方くんを包み込むようにして抱きしめてみる。そして弱点である耳にわざと息を吹き込むように囁いた。
「俺を信じてくれねえの?」
その台詞にびくんと肩をすくませた土方くん。いや、台詞というより俺の吐息で感じちゃったのかもな。耳、ホントに弱いから。よし、もうひと押し。
「ね、だめ?」
「や、やめ…っ」
慌てて顔を逸らそうとするけど、身体をがっちり押さえこんでるから顔だけ逃げてもすぐに捕まってしまう。
「十四郎?」
実は名前を呼ばれるのも弱い。まあ、俺も銀時って呼ばれると弱いと思うけどね、呼んでもらえないから(泣)。
耳へのダブル攻撃でついに観念したのか、蚊の鳴くような声が聞こえた。
「・・・・・いつか」
「え?」
「5月5日だよ、悪いかっ!」
開き直ったのか、土方くんは急に耳元で大きな声を上げた。もう、耳がキーンとなったじゃん。
ああ、そうか5月5日ね。
「あ、ははは…子供の日だ。かーわいいー」
端午の節句で、子供の日。ホント、真っ直ぐな彼にお似合いの誕生日。笑わないと言ったけど自然と頬が緩む。違うからね、これはバカにしてるんじゃないから。
窓から見える鯉のぼりのように、風をはらんで真っ直ぐに泳いでいくイメージが彼の…うん?
「あれ・・もしかして今日・・」
腕の中で土方くんがますます小さく縮こまった。
「えええええ?今日じゃん!!うわああっ…だから土方くん来てくれたんだ!ちょっ…銀さん超うれしー」
「・・・・帰る!」
縮こまるばかりだった土方くんは、浮かれて力の緩んだ俺の腕を引きはがして立ち上がった。そのまま玄関へ直行しようとしたけれど、ダメダメ逃がすわけないだろ?
「うおっ」
後ろから帯を掴んで愛しい恋人を胸の中へ引き戻した。
「離せっ」
「本気で帰りたいの?」
ジタバタともがくその抵抗は、だけどきっと本気じゃなくて、だから難なく抑え込める。
「でも、プレゼント用意できてないな、どうしよう」
「いらねえよっ、別に誕生日だから来たわけじゃねえし!たまたま休みだっただけだし!」
「そうか、銀さんと過ごせるだけでいいってか。カワイイー」
「聞ーけーよっ、もう!」
「誕生日おめでとう 十四郎」
不意打ちのような祝いの言葉に土方くんの抵抗が止んだ。
背中から抱き込んでいるので顔はよく見えないけれど、両手はグーになったままだし、耳なんかもう比喩じゃなく本当に赤いし、抱きしめた腕に土方くんの早い鼓動が伝わってくるから、ホントにもうドキドキしちゃってんだなあと、愛おしくてたまらなくなる。
しばらくそうやって幸せを噛みしめていると、土方くんが息を吐くのが聞こえた。そして大きく息を吸い込むとまた吐く。なになに?ドキドキしすぎて気分でも悪くなったのか?と心配になった時、土方くんがようやく声を発した。
「あ…あの、よろず、屋」
「なに?」
「・・・ありがとな」
“ありがとな?”ちょっと、聞いた?…って誰に報告してんだ、俺・・なんて言ってる場合じゃない。ホント聞きました?皆さん(誰?)!!
土方くんがお礼言ったよ!しかも俺に!
「土方くん!」
たまらず、腕の中の彼をぐるんと回して顔を見る。
「わわっ、見んな!」
途端に顔を逸らすけど、ああ、俺はしっかり見ましたよ。世界中で一番可愛い恋人の顔を。
「土方くんが…ありがとなって…ありがとなって…」
「うっせえよ!俺だって礼ぐらい言えんだよ!俺を何だと思ってんだ!」
「そうだね、偉いよ土方くん。今日いっこお兄さんになったんだもんね。お礼ぐらい言えるよね」
「なっ…バカにすんのもいい加減にしろ!」
頭を撫でながら褒めてあげたが、案の定その手は乱暴にはねのけられてしまった。
そして逆に俺の前髪がむんずと掴まれる。
「みぎゃっ!抜ける抜けるううっ!やめてぇえ生え際は大切にぃぃっ」
「いいじゃねえか。俺がお兄さんになったなら、てめえもよりおっさんになんなきゃなんねえだろ」
「なにそれなにそれ銀さんはおっさんじゃなくて大人なの!土方くんより少しだけお兄さんな大人の男なの!」
「甘いモンばっかり喰ってるてめえのどこが大人なんだよ!大人ってえのは…うわっ」
すっかりいつもの調子を取り戻した土方くんだけど、調子に乗りすぎだ。
俺は前髪を掴ませたまま、土方くんにしがみつき、そのままソファに押し倒した。
「大人ってえのは、前髪ひっつかんで喧嘩なんかしないの。それより、大人なら他にやることがあるよね」
「よろず…っ」
何か言い返そうとした土方くんの唇を、ちょっと強引にふさいでしまった。あとはお兄さんな俺がリードしてあげるから、気持ちよくなってればいいよ。
長めのキスに土方くんの目がとろんと潤んできた。今日はこのままいただいてしまおう。
そうそう、できれば万事屋じゃなくて「ありがとう銀時」って言ってほしかったけど、それは来年の課題にとっておこう。
誕生日おめでとう 十四郎。
2011.5.5